ころの紋、背恰好も肉付きも完全に同じだし、頭巾のなかから覗いている眼も、この真剣に、同じように赤く血走っている。
 が、自分が階下へ下りる時、祖父江出羽は壁際によろめいていたのだから、今もその壁際にいるのが出羽であろうと、佐吉は脇差を閃めかして、室内へ踏み込むと――。
 それと見た出羽守、声を励まして、
「おお、来たか。こいつをここに追いつめておる。お前は横から廻って、二人で斬り伏せよう。」
 紛らわしいのを幸い、こう佐吉をごまかして、味方に引き入れようとする。その声も伴大次郎にそっくりなので、佐吉はそう思い込んで、出羽と並んで大次へ斬尖を向けたが。
 その時、その出羽だとばかり思っていた、部屋の隅の白覆面が、
「煩!」
 と叫んだ。
 はっと気のついた佐吉、
「悩!」
 と答えるより早く、振りかぶった刀をそのまま、さっと横手に、並んで立っている出羽守の肩先へ斬り下ろしたから堪らない。
「ぼん!」と「のう!」とは妙な掛け声があったものだと、ちょっと不思議に思っていた出羽守、つまりそこに隙があったと言うのだろう。おまけに味方に引き入れたとばかり信じていた人間が、相手へ向けようとした刀で、
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