しておりましたろう。だが、ああいう邪魔があっては、勝負が面白うない。このとおり刀を引いてお待ちしておりました。今はもう容赦はない。参りますぞ。」
 静かな大次郎の声に、ぞっと冷たいものを感ずると同時に出羽守は、もはやこの血戦は免れないと感じたらしく、
「さ、来い!」
 と大刀を構え直した。
 その刹那に!
 法外流の名誉、下谷の小鬼といわれた伴大次郎である。いきなり真向から女髪兼安を躍らせて、刀と身体が一つになって斬り込んで行く。
「うむ! これはできる!」
 感心したように叫んだ出羽守は、ちゃりいん! 女髪兼安を横に受け流すが早いか、ひらり身をかわして――二人、今は場所を取り換えて、大次郎が今まで出羽のいた壁際に、そして、出羽は、いま大次の立っていた場所に、双方とも青眼に構えで動かない。
 動かない。
 動かない。
 千浪を下へ抱き下ろして、若い者たちに手当てを命じておいた文珠屋佐吉は、すぐさまこの二階の「梅」へ駈け上がって来たが、部屋へはいろうとして、敷居際に立ち停った佐吉、びっくりしてしまった。
 もうこうなると、どっちがどっちともわからないので。
 同じ弥四郎頭巾、同じ白衣に賽
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