笑った大次、
「とうとう正体を明かしおったな。出羽守殿、覚えがござろう。拙者とこれなるこの家の主は、御貴殿のために亡ぼされた田万里の郷士でござる。七年以来、貴殿の煩悩に報ゆるに煩悩をもってせんと、江戸に潜んで、この機会を待ちもうけておったもの。また先般三国ヶ嶽の猿の湯で、殿の刃に倒れた弓削法外先生の仇でもある。――拙者は、この千浪の夫の伴大次郎です。」
 そう言いながら大次郎が、部屋の一隅の千浪の姿に眼をやると、出羽守もそれへ、素早い視線を投げて、
「なかなかこみ入っておるのだな。田万里の伴といえば、小信の弟――。」
「そうです。あなたに奪われた小信の弟ですが――今日聞くところによると、その姉は、気が狂って、お屋敷を出ておるとのこと――。」

   遠州の巻――奇術駕籠《てじなかご》の二――

     花の人質

「おい、大次、殿様を相手に何か言ってもしようがねえ。早くお命を貰ってしまおうではないか。」
 佐吉がそばから、やきもきして急き立てると、
「命を貰う? うふふふ、おれの命が欲しいというのか。欲しけりゃあくれてもやるが、だが、ちょっと待て。」
 と出羽守は、弥四郎頭巾の顔を佐
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