おるのか。」
この大次郎の言葉に、祖父江出羽守は度胆を抜かれて、
「な、な、何だと? 貴様こそおれの真似をして――。」
「黙れっ!」
大次郎が叫んでいた。
「余は祖父江出羽守であるぞ。……遠州相良の城主、この祖父江出羽守と同一の服装をいたすとは、怪しからん奴――。」
そばに立っている文珠屋佐吉が、にやにやして両方を見較べたが、大次、なかなかうまいことを言うと思いながら、しかし心中には、一脈の疑惑を持ったので、こっちこそ本当の出羽守で、千浪を連れて泊り込んでいるほうが、伴大次郎なのかもしれないと、先刻大次の顔を見て、一緒に連れだってここへ来たのだから、万々そんなことはないけれど、だが、こうして見ると、まったくどっちがどっちともわからないのだ。佐吉としてはとっさに、こんな疑問が湧こうというもの。
驚いたのは出羽守である。
「ややっ! 余の名を騙《かた》るとは、不屈千万なやつ。余こそ遠州相良の祖父江出羽であるぞ。」
叫ぶより早く大刀片手に、すっと起ち上がっていたが、これだけ聞けばもう用はない。この出羽守の口から、一度名乗らせようとの魂胆だったのだから。
「うむ!」
と頭巾のなかで
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