ぎが持ち上がるかもしれねえ、お前たちに関係《かかわり》のあることじゃあねえから、があがあ音を上げて騒ぐんじゃあねえぞ。だが、他のお客さんに、お怪我があっちゃ申訳ねえから、そこんところはよく気をつけてくれ――おお定、お前は裏口を閉めて来い。構うことはねえから縁側の雨戸を立ててしまいねえ。表の大戸を下ろしちゃあ世間様が何かと思うから、まあここだけは開けておくとして、手前たちみんなここにいて、泊りの客が来たら、ちょっと取り込みがござんすからと言って断るんだ。」
 男ばかりの世帯だから、こういう時は締めくくりがつきやすい。喧嘩だと聞いて、文珠屋の下男一同心張棒を持ち出す者、捻り鉢巻をする者、すっかり面白がって、わいわい言う騒ぎ――。

     いずれを何れ二つ巴

 長い廊下に部屋べやの障子がすっかり閉まって、しんとした静けさ――。
 大次郎の先に立った文珠屋佐吉は、その廊下を進み、ぴたと足を停めたが、「梅」という部屋の前。
「ここだ。」
 と言う目くばせを大次郎へ送ると、障子のなかでは祖父江出羽守、室外で跫音が停まった様子に、早くもそっと背後の床の間の大刀へそれとなく手を伸ばしながら、

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