人をお連れした。もとおいらがお世話になったお侍様だ。御挨拶をしねえか。」
与助は眼をまんまるにして、
「冗談じゃありませんぜ、親分。これと同じお侍さんが、女を連れて二階の、『梅』にいらっしゃるんで。」
「げっ! なに? それではあの、もう一人の弥四郎頭巾が!」
と、佐吉は思わず、背後の大次郎を振り返りながら、与助へ、
「ひょんな侍が女を連れて泊り込んだと、さっきお前が言ったのはその客か?」
与助はまだ呆気にとられて、大次郎を凝視めて、頷くだけだ。
佐吉は先に立って上りながら、
「大次さん、来てるらしいぜ。」
「そうらしいな。斬《や》るかな。まず、千浪どのに怪我のないように。」
この、親友の妻と知りながら、千浪に対する恋心を制し切れない佐吉は、つと、暗い顔になりながらも、
「そうだ。その千浪様とやらに、お怪我があっちゃあならねえ。だが、出羽はこれを幸い、首にしてえものだな。」
「言うまでもない。それは拙者が引き受けるから、お主は千浪を頼む。」
何の話か解らないので、そばでまごまごしている番頭の与助を、振り返った佐吉、
「すこし二階でどたんばたんするかもしれねえ。お前は誰が下り
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