る。
「へい。畏りました。」
と答えた与助は、前から怪しいと睨んでいた二人連れなので、じっと倒れている千浪へ眼を返し、
「御新造さまは、どうかなさいましたので。」
「うむ、いや、なに、ちょっと眠っておるのだ。遠道をすると足弱はことのほか疲れると見えるのう。」
「いえ、もう、御婦人方はごもっとも、お床をとらせましょうか。」
「いや、それには及ばぬ。ほどなく覚めるであろうから。」
頭巾のなかからそう言っている出羽守を、敷居際でお辞儀をしながら与助は、素早くじろりと見て、
「それでは、ただ今御酒を――。」
と障子を閉めて、階下へ下りたのだったが――。
合言葉
梯子段を下りた与助は、そこの土間へぶらりとはいって来た主人の文珠屋佐吉を認めて、
「おう、親分。」
と声をかけたが、その佐吉の背後から、もう一人、あの二階にいる白覆面と同じ弥四郎頭巾、同じ白絹にさいころの紋付、同じような朱鞘を腰に、懐手ではいって来た侍を見ると――狐につままれたような顔の与助は、その侍と、二階のほうを見較べるようにして、
「親分! これはいったいどうしたというんで。」
「何がどうしたというんだ。客
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