一時も早く千浪様を探して――。」
 と焦立ったが、
「それがどこへ行ったか解らねえのだ。」
 と言う文珠屋の言葉。
 また二階から聞えて来る恋慕流しの唄に、大次郎は頭巾のなかから、宗七へにっこりして、
「山で、お主のあの唄声を聞いたが七年後の三国ヶ嶽の会合から、こんな騒動になろうとは思わなかった。」
 と今さらのように、腰の女髪兼安の柄を叩いて、三人ここで、再び、重なる恨みの煩悩鬼出羽に、堅い復讐を誓ったのだ。
 と! 騒ぎにとりまぎれていた宗七、大次郎へ向かって、
「大次さん、驚いちゃいけやせん。姉さんの小信さんを、あっしの家にお世話しているのだが。」
「え、姉上を! それはどういう――。」
「それが、どうしたのか、さっぱり解らねえが――大次さん驚いちゃあいけねえ。小信さんは、少し気が狂っていなさるようだ。」
 田万里《たまざと》にいたころから、文珠屋佐吉も、この伴大次郎、姉小信を知っているので。
「あの小信さんが――? すりゃ、出羽の許を逃げ出して。」
 出羽守の側女《そばめ》に、押しこめ同様になっているはずの姉の所在が解ったと聞いて、喜んだのも束の間、気が狂っていると知って、大次
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