」に傍点]を決め込んだほうが、利巧のようで。さっきの甲賀流の霞飛びじゃあねえが、ふっと横へ消え込んで――。」
職掌柄、川俣伊予之進は、この容易ならぬ乱闘に眼をぱちくりさせているものの、どれがどれだか解らないから、手の付けようがなくて、まごまごしていると、かねがね煩悩小僧と動かぬ白眼《にらみ》をつけている文珠屋佐吉を、宗七、ここで一声かけるかと思いのほか、そこは共に大志を抱く友達のよしみ。
「おい、江上、ここでこの出羽守を仕止めようとしても、それは無理だ。向うには大勢二本差しがくっ付いている。ここはひとまずずらかったほうが――。」
と囁いたかと思うと、自分から先に立って、元来た入口のほうへ一目散!
「御用! おのれっ――!」
と何もないのに、さも何者かを追いかけるよう、いっさんに道場を駈け出した。
見越の松
この、いきなり御用の声と一緒に、恋慕流しこと深川やぐら下の岡っ引宗七が、やにわに外へ向かって駈け出したので、まず川俣伊予之進が、何事かと後につづく。
それを自分を逃がそうとの機智と知った佐吉、
「由公、来いっ!」
と、承知のを促して、あとに続く。
出羽とば
前へ
次へ
全186ページ中138ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング