それはあの、女たらし恋慕流しの名に隠れて、十手を預っている深川やぐら下の岡っ引宗七と、八丁堀の与力、川俣伊予之進の二人だった。
 大次郎の姉小信を、思いがけなく自宅に引き取った宗七は、折から来かかった川俣と伴れ立って、その小信の弟伴大次郎のいるはずの下谷の道場へ、小信のことを知らせようと、出かけて来たのである。
「いえ、あの、気の違った女の知り合いが、下谷のほうの道場にいるので、それが、ひょんなことからあっしの知り人でござんしてね。あの気狂い女を自宅へ引き取っていることを知らせてやろうというだけのことなんで。」
 たしか、川俣伊予之進には、何も話してないのだ。が、
「例の煩悩小僧のほうにも、案外何か引っ掛りがあるかもしれませんから、旦那も、お出でなすったらいかがです。」
 という宗七の言葉を頼りに、川俣は、それ以上何も訊かないことにして、一緒に出て来たわけ。
 しかし、話はまた煩悩小僧のことに落ちて行って、
「なあ、櫓下、何とかしてそちの手で、この煩悩小僧をお繩にしたいものだ。日本橋には高札が建ったが、いや、もう、江戸中えらい評判で、今この怪盗をお手当てにした者は、一躍名を挙げるという
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