ておらんのに気がついたから、引っ返して来た。どうだな。これで揃っておるかな?」
 と、彼は、真深に隠れた頭巾の下の眼で、連中を見まわす。
 中で山路主計が、一歩進むように、
「それでは、今日、下谷へお出かけになるのは、お取り止めになったんで。」
「下谷へ?」
 思わず大次郎は、訊き返す。主計はじめ一同は、不思議そうに、
「お忘れでございますか。あの娘と若造は、下谷練塀小路の法外流道場にいるとかとのことで、殿様は今日そちらへいらっしゃるというので、こうしてわれわれ一同出かけて来たのではございませんか。」
「うん、そうであったな。」
 と、言いながら大次郎は、法外先生の仇のこの連中に逢ったのを幸い、また、彼らが自分をその首領の白頭巾と思い込んでいるのをいいことにして、しばらく身代りになり澄まし、彼らの欲するとおりに動いて、その内状をさぐって見るのも興あること――なによりの好機会、そう思うと同時に、
「うむ。これからすぐまいろう。」
 と、先に立って今来たほうへ引っ返し、下谷を指して急ぎはじめた。
 と、この時――である。
 別の道をとって、
 やはり下谷を指して急いでいる二人伴れがあった。
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