で叫んだ。
「おお! あそこへ行く? あそこへ行かれるじゃないか。」
身代り殿様
「あ! お人の悪い。あちこちお探し申しました。」
という声に、白絹の紋付に弥四郎頭巾をすっぽりと被り、女髪兼安を帯した伴大次郎は、ゆっくりと振り返った。
日本橋を神田から来て、京橋のほうへ渡ろうとする橋の袂だった。
振り向いた大次郎の前に、お花畑の斬り合いで覚えのある顔、顔、顔――北伝八郎、中之郷東馬、山路主計らが、五、六人ずらりと並んでいる。
どきんとした大次郎だったが、すぐ自分の顔は、覆面に隠れていて見えないのに気がつくと同時に、相手方は、誰かと取り違えているらしいので、安心した大次、思わずはっと腰を落した構えをゆるめて、
「おお、一同か。」
と、含み声で答えた。
「一同かじゃアありませんぜ、殿様。そこまで来ると、お姿を見失ったので、いま皆で大騒ぎをしていたところです。」
自分を、あの主人の、もう一人の弥四郎頭巾と間違えているのだと気がつくと、大次郎は、頭巾のなかでにっと微笑みながら、なおも声をつくることを忘れなかった。
「うむ。一と足先にそこらまで行ったのだが、誰も付いて来
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