すと、ふっと消えちめえやがった。いや、あっしは面喰ったの、面くらわねえのって、すぐ横町へ飛び込んで、あの、時の鐘の下あたりをぐるぐる廻って捜しやしたが――。」
 佐吉は、苦笑して、
「こりゃあ承知の由公にゃあ、ちっと荷が勝ち過ぎたようだ。そりゃあお前、甲賀流の霞跳《かすみと》びと言って、山あるき野歩きに、草一本ありゃア不意っと姿を消すといわれている妙法だあな。」
「あれっ! するてえと、あの武士はとんでもねえ化物なので。」
「馬鹿野郎、化物なりゃこそ手前に後を尾けさせたんじゃねえか。」
「どうも何とも申しわけがござんせん。」
 しきりに、頭を掻いている由公を、佐吉はじろりと見下ろして、ずかり! 縁側へ踏み出した。
「はははは。承知の由公も、あんまり承知たあ言えねえな。今から承知の綽名を取り上げることにしよう。さ、ついて来い。」
 話の筋道を知らない与助は、何とも口の出しようがないので黙っていたが、この時、出て行く佐吉の背後から声を掛けて、
「親分、どちらへいらっしゃるんで。」
「うん、ちょっと訳があってな。下谷の練塀小路の法外流の道場まで往って来る。由公を伴れて行くから、お前は留守をし
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