》きの脛《はぎ》に袷《あわせ》の裾をさばいて、うねうねとした黒土の小道を、上の森陰の部落をさしていっさんに上って行った。
剣を取って江戸を風靡《ふうび》する弓削法外先生のひとり娘である。夜みちを怖いとは思わないが――。
すると、この時だ。
一ぽんの路を下りてくる多人数の跫音。
手拭いをぶら提げた丸腰の侍たちで、だいぶ前から藤屋の下座敷に陣取って、連日連夜騒いでいる連中である。
わるいところへ悪いやつらが――とは思ったが、すっとすれ違おうとすると、まっ先に立った一人が、藤屋とあるぶらぶら提灯を千浪の顔へ突きつけて、
「いよう! べっぴん! や、磨いた、みがいた。」
ぷんと酒の香がする。
「惜しいことをしたわい。もう一足早ければ、これなる菩薩《ぼさつ》のお臍が拝めたものを。わっはっは。」
また、ひとりが、
「いや、じつに尤物《ゆうぶつ》! 拙者は、送り狼の役を買って藤屋まで引っ返そう。」
下婢《げび》た笑いと揶揄《やゆ》のなかを、耳を覆った気で潜りぬけ、やっと藤屋へ走りこんだ千浪が、裾をおさえて梯子段を駈け上って、二階の部屋の障子をひらくと――。
「長湯じゃったな。いま見さ
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