盗賊に早変り、そのぬすんだ金の一部を資本に、この文珠屋という宿屋の出物を買って世間の眼をくらまし、押し入った先々にいたずら半分社会への意趣晴らしのこころも罩《こ》めて、かならずそこらへ書きのこしてくる。煩悩小僧の名を取って、今では。
由公、与助の二人を乾児に、店のほうもかなり繁昌しているし、もう一つの稼ぎもなかなか大きい。だがこの、顔が怖いだけで苦労人、結構人の文珠屋の主人が、あの評判のぼんのう小僧とは、このふたりのほか、店の使用人も誰も知らないので。
その与助と由公も、佐吉親分はただの泥棒と思っているだけ、どうしてこんな暗い道に踏み込んだかその真の目的《めあて》は何であるかそんなことは、佐吉もかつて打ちあけたことはなし、二人より何人にも察しようのないことだった。
女を置かず、客の用から拭き掃除まで、みんな男を雇って済ましているのは、女は眼はしがきいて口に締まりがないというので、この大秘密を保たんがためではあったが、それよりも、佐吉が大の女嫌いという建前。
じつに、おしろいのにおいを嗅ぐと、三日飯がまずい――というところから、下男ばかり何人も置いているのだが、江戸というところは
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