、声音等見聞きしたる者、または聞込みを得たるものは、何人によらず、なにごとに限らず、町役人を通じて早々お訴え出ずべきこと。
右計らいたる者は、特別の思召をもってお褒めの言葉及び金員若干、賜わるべきものなり。
月 日 南北奉行所
[#ここで字下げ終わり]
とあるのを、わいわい言って仰ぎ読んでいる群集の中で。
眉は歪み、眼はくぼみ、獅子っ鼻に口は大きく額部が抜け上って乱杭歯《らんぐいば》、般若の面のような顔がひとつ。
小銀杏《こいちょう》の髪。縞の着物に縞の羽織。大家の旦那ふうの文珠屋佐吉なので。
山では。
あみだ上りはみなつづら笠、どれが様《さま》やら主《ぬし》じゃやら――この文珠屋も、葛籠笠《つづらがさ》をかぶっていたから、あの時は顔容《かおかたち》は見えなかったが、こうして素面に日光を受けたところは――。
なるほど、いつぞや自分で洩らしたとおり、ぞっとするほど恐ろしい醜面。
この文珠屋佐吉が、微苦笑とともに高札から眼を離して、むこうの人ごみで立ち話をしている白ふくめんと千浪の様子を、しばしじっと見据えていたが。やがて。
嬉々として出羽守と伴れ立っ
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