、声音等見聞きしたる者、または聞込みを得たるものは、何人によらず、なにごとに限らず、町役人を通じて早々お訴え出ずべきこと。
右計らいたる者は、特別の思召をもってお褒めの言葉及び金員若干、賜わるべきものなり。
   月  日        南北奉行所
[#ここで字下げ終わり]
 とあるのを、わいわい言って仰ぎ読んでいる群集の中で。
 眉は歪み、眼はくぼみ、獅子っ鼻に口は大きく額部が抜け上って乱杭歯《らんぐいば》、般若の面のような顔がひとつ。
 小銀杏《こいちょう》の髪。縞の着物に縞の羽織。大家の旦那ふうの文珠屋佐吉なので。
 山では。
 あみだ上りはみなつづら笠、どれが様《さま》やら主《ぬし》じゃやら――この文珠屋も、葛籠笠《つづらがさ》をかぶっていたから、あの時は顔容《かおかたち》は見えなかったが、こうして素面に日光を受けたところは――。
 なるほど、いつぞや自分で洩らしたとおり、ぞっとするほど恐ろしい醜面。
 この文珠屋佐吉が、微苦笑とともに高札から眼を離して、むこうの人ごみで立ち話をしている白ふくめんと千浪の様子を、しばしじっと見据えていたが。やがて。
 嬉々として出羽守と伴れ立っ
前へ 次へ
全186ページ中112ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング