か。それじゃあ一っ走り報せに行って、引き取ってもらうなり、とっくり相談してみたら――。」
「うん。大次郎の旦那も、どんなにかお喜びなさるに違えねえ。じゃ、そういうことにしよう。」
宗七が自分の服装《なり》を見下ろして、
「おう、これじゃアあんまりだから、小ざっぱりした着物《もの》とあっちの帯を出してくんねえ。」
「あいよ。」
とお多喜は、押入れへ首を突っ込んで、
「だけど、どうしてこんな可哀そうなことになったんだろうねえ。あたしゃ見ていて、いっそ泪が出てしようがないよ。」
「何か深え事情《わけ》があるらしいが、なにしろ、こっちの言うこたあ通ぜず、おまけに口をきかねえんだから、始末におえねえ。」
が、小信が出羽に伴れ去られたことだけは知っている宗七、なにかこれは出羽守の暴状と関係《つながり》があるらしい、早くも察していっそう暗い気もちになりながら、一|本独鈷《ぽんどっこ》の博多の帯を廻しまわし、足を踏みかえて締めている最中――。
がらっ!
入口の格子が開いて、
「宗七、いるか。」
低い、しゃ嗄れ声が土間に。
ぼんのう小僧噂の聞書
「お、川俣《かわまた》の旦那――
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