匠。」
「あれ、あんなことを。たんとお弄《からか》いなさいましよ。」
 裾を押さえてしゃがんだ文字若は、恥るように笑いながら、足袋を脱いだ。初太郎も、先に足袋を脱いで控えている。
 藤吉は黙って、自分の前を示した。
「三人並んで、ここへ足を投げ出しておくんなせえ。おいらあちょっと考えることがあって、足の裏を見てえんだ。」

      八

 文字若を中に、初太郎と宇之吉が左右に、三人は言われるとおり畳に腰を下ろして、行儀の悪い子供のように、素足を揃えて長く藤吉の方へ突き出した。
「こうでごぜえやすか。」
「何ですか、よっぽど変な御探索でございますねえ。」
 実際それは、いかにも奇異な光景だった。大の男ふたりと若い女が、どうなることかと恐しそうに並んで、素の足を投げ出している。文字若の足からは湯文字が溢れて、雪を欺くような肌《はだ》、象牙細工のような指、ほんのり紅をさした爪の色――恥らいを含んで足さきをすぼめた文字若は、絶えず微笑《ほほえみ》を続けていた。
 犬のように両手を突いた藤吉である。初太郎と宇之吉の足はざっと見たばかりで、かれの眼は、吸われるように文字若の足の裏に据って、動か
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