間違えあるめえのう。」
「とんでもない! 見間違いなど、決してそんなことはございません。はい、わたしもこの宇之吉さんも、はっきり見たんでございますから――へえ、素足でございました。立派にはだし[#「はだし」に傍点]でございました。へえ。」
「そうけえ。その素足の件で、おいらあちっとべえ不審を打《ぶ》ったことがあるんだ。おお、揃って素足になってみな。」
「素足になるんでございますか、私ども三人が。」
 おずおず訊き返した初太郎を、藤吉は噛みつくように呶鳴って、
「くでえや! 足袋を脱げ!」
「あっしゃあこのとおり、初めから足袋なんか穿いていやせんが、」宇之吉はまごまごしながら、「この素足を、いってえどうするんでごぜえます。」
「まあ、待っていなせえ――おう、師匠、ついでだ。お前の足も一つ拝ませてもらおうじゃあねえか。」
「ひょんな親分さん! こんな汚ない足でおよろしければ、お安い御用でございますよ。いくらでも御覧なすって――。」
「どうしてどうして、勘の言い草じゃあねえが、弁財天といわれる師匠の足だ。めったに拝見できるもんじゃあねえ。これも岡っ引の役徳で、稼業《しょうべえ》冥利よなあ、師
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