、先刻から黙りこくって聞いていたのだった。
 迎えに来たに[#「に」に傍点]組の頭常吉のはなし半ばに鍋屋へ到着したので、中途から、発見者たる初太郎自身が後を引き継いで、この一伍一什《いちぶしじゅう》を話したのである。
 釘抜藤吉は、それが熟思する時の習癖《くせ》で、ちょこなんと胡坐《あぐら》を組んで眼を開けたり瞑ったりしながら、しきりに畳の毛波《けば》を※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]《むし》っている。何かまったくほかのことを考えているようなようすだった。勘弁勘次も神妙に口を噤《つぐ》んで、若いだけに殺された姉よりも美しい文字若の顔を、お得意の「勘弁ならねえ」も涸《か》れ果てていやにうっとり眺め入っている。葬式彦だけはけろり[#「けろり」に傍点]閑《かん》とこれだけは片時も離さない屑籠を背にてすりに腰かけてはだけたお美野の裾前を覗き込むように、例の「かんかんのう、きうのれす――」でも低声《こごえ》に唄っているのだろう。小さく、口が動いていた。
 人気第一の客稼業である。女将が変な死に方をしたなどと知れ渡って宿泊人を驚かせても面白くないし、客足にもかかわる。そこは気丈夫な文
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