たのさ。素人のあっしなんか、どうにも勘考《かんがえ》のつけようのねえ不思議な死に様《ざま》だあね。何て言ったってお前、お美野さんの屍骸がよ、その初太郎てえ野郎の眼の前で、こう宙乗りをやらかしたんでごわすからな――あうへっ! これだけは釘抜の親分も、どうやら手を焼きゃあしねえかと、ま、こいつああっしの、余計な心配かもしれねえが――。」
 すっくと起ち上った釘抜藤吉だった。五尺そこそこの矮躯《わいく》に紺の脚絆、一枚引っかけた盲目縞《めくらじま》長ばんてん、刀の下緒のような真田紐《さなだひも》を帯代りにちょっきり結んで、なるほど両脚が釘抜のように内側へ曲がっている。いわゆるがに[#「がに」に傍点]股というなかで、もっとも猛烈な部に属する。慾目にも風采が上っているなどと言えないばかりか、正直のところ、まず珍々妙々なる老爺であった。
 藤吉は、鷲掴みにした手拭いをはだけ[#「はだけ」に傍点]た懐ろから覗かせて、ちょこちょこと土間に降り立った。話なかばだから、驚いたのはに[#「に」に傍点]組だった。出口を塞ぐように立ちはだかって、
「親分、どちらへ――。」
 言いかけた彼は、二度びっくりしなけれ
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