んだ藤吉、勘次、彦兵衛の顔を、探るように見廻している。事件|出来《しゅったい》とみて、紙屑拾いに出かけようとしていた葬式彦も引き留められ、勘次は、あわてふためいている常吉を案内して広くもない玄関《いりぐち》へ通すと、破れ半纏をひっかけた藤吉親分が、鳩尾《みぞおち》の釘抜の文身《ほりもの》をちらちらさせて、上り框《がまち》にしゃがんでいたのだった。片方に荒塩を盛って房楊子を使いながら、
「朝あ結構冷えるのう。」と、じろりに[#「に」に傍点]組を見上げて、「のう常さん、知ってのとおり、おらあ気が短えんだ。長話は願い下げよ。なんですかい、その、大鍋の泊り客で武州小金井の穀屋の番頭初太郎てえのが、夜中にひょっこり起き上がって、戸惑いでもしたってえのかい。」
 勘次も彦兵衛も、にやりと顔を笑わせたが、に[#「に」に傍点]組の常吉は、冗談どころではないといったふうに大仰《おおぎょう》に手を振って、
「なんの、なんの――。」ちょっと声を低めた。「親分、愕きなさんなよ、戸惑いは戸惑いでも、お美野さんが彼の世へ戸惑いをなすった――。」
 えっ! とでも驚くかと思いのほか、藤吉の表情《かお》は依然として石
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