満たした。
「見たところは――。」
 と、言って、久住は、ふところへ手を入れた。
「ただの、細長い、魚の鰭《ひれ》のようなものでな、ま、こんな、こちこちの乾物《ひもの》じゃ。」
 何か取り出して、親子の眼の前へさし出した。おこうは、ぎょっとして、気味悪そうに反ったが、庄太郎が受け取って、掌の上で転がして凝視《みつ》めた。
「これがその竜の手――竜手さまですかい。」
 惣平次が、息子の手から取って、
「何の変哲もねえように見えるが、どういうんでございますね。」
 とみこうみして、火から遠い畳の上へ、置いた。
 久住の、すこし嗄《か》れた太い声が、言っていた。
「琉球《あちら》の、古い昔の聖人《ひじり》の息が、この竜の手にかかっておりますんじゃ。先ざきのことまで、ずん[#「ずん」に傍点]と見通しのきく、世にも偉い御仁であったと申す。そのお方は、人の生命を司る運命《さだめ》と、宿縁をないがしろにする者のかなしみとを、後代のものに示さんとおぼし召されて、これなる竜の手をお遺しなされた。三人の別べつの人間が、それぞれ三つの願望を祈って、それを、この竜手様が即座にかなえて下さるようになっておる。」
前へ 次へ
全33ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング