、よく御無事でおっとめなすって――。」
母親のことばを、庄太は、そばから奪うように、
「おいらも、琉球へ行ってみてえな。ぶらっと見物して来るんだ。」
「話に聞けば、面白い土地のように思われるかもしれんが、なに、江戸に勝るところはござらぬよ。」
久住は、さかずきを置いて、にわかに酒が苦くなったように、ちょっと眉を寄せた。
何か思い出して、惣平次が、膝を進めた。
「お? そう言えば、いつかちょっとお話しなすった竜の手――竜手様《りんじゅさま》とか、あれはいったいどういうことでござります。」
「竜の手、か。いや、何でもござらぬ。」
顔の前で手を振って、炉のけむりを避けながら、
「何でもござらぬ。」
繰り返した。
おこうが、好奇気《ものずき》に、
「竜の手――? 何でございます。」
「まあ、いわば手品――手品でもないが、切支丹《きりしたん》の魔術とでも呼ぶべきものでござろうな。しかし、切支丹ではない。」
聞手の三人は、乗り出して、久住の顔を見た。黙って、久住は、杯を取り上げた。空《から》なのを気がつかずに、口へ持って行って、また、黙って下へ置いた。
惣平次が、銚子を取り上げて、
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