久住の様子が、いかにも真面目なので、三人は、笑えなかった。
 口のまわりを硬張らせて、くすぐったそうな表情をした。
 真剣を装って、庄太郎が訊いた。
「竜の手って、ほんとに、あの、竜の手なんですかい。」
「さよう。竜手様は、竜の手でござる。」
「竜に、手があるかなあ――。」
 久住は、答えなかった。
 庄太郎は、露骨に、冷笑《ひや》かすような口調を帯びて、
「一人につき三つだけ、何でも願いごとをかなえて下さる。ふん、どうです。旦那は、何か三つ、お願いにならねえんですかい。」

      三

 たしなめるような眼で、庄太郎を見据えた久住は、
「いかにもわしは、わしの分を、三つだけお願い申した――そして、かなえられました。」
 重々しく答えて、白い額部《ひたい》になった。
「ほんとに、三つお願いになって、三つとも、聞き入れられたのでござりますか。」
「さよう。」
「ほかに誰か、願った人は――。」
「拙者の以前《まえ》に持っておった者が、やはり三つの願をかけて、それも三つとも応《かな》ったとか聞き及んでおるが――。」
 風が、渡って、沈黙のあいだをつないだ。大川の水音が、壁のすぐ向う
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