こんでいるようすなのだ。
 が、日を経るにつれて、この、考えてみると根拠《よりどころ》のない期待は、薄らぐ一方だった。万一《もしや》の儚《はか》ない希望が、しんしんと心を刻む痛さ、寒さに、置き代えられて来た。
 おこうも惣平次も、言葉を交さなかった。口をきかなかった。何も、いうことを有たないのだった。日が、長かった。夜は、もっと長かった。
 やがて、初七日の今夜だった。
 通夜をするような心持ちで、壁を背に、じっと坐している藤吉に、細い、低い、押し潰れた声が、聞えて来た。
 また、おこうが、涕《すす》り泣いているのだった。
「寒い。二階へ上って、寝ろよ。」
 惣平次が、言った。
「つめたい石の下で、庄坊こそ、どんなに寒いことか――。」
 おこうは、こう言って、泣き声を新たにした。が、すぐに止んで、藤吉の見ているまえで、おこうの小さなからだが、すうっと伸びて起った。
「手じゃ!」人間の声らしくない声なのだ。「竜の手じゃ! ほれ、ほれ、竜手様――。」
 藤吉よりも、惣平次が、慄然《ぞっ》としたらしかった。
「どこに、どこに竜手《りんじゅ》さまが――おこう、どうした。」
 炉を廻って、老夫《
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