おっと》の前へ進んで、
「貸して下さいよ、竜手様を。」おこうは、もう平静にかえっていた。「棄てやしますまいね。」
「押入れの奥に、投げ込んである。なぜだ。どうするんだ。」
泣き笑いが、おこうの全身を走り過ぎると、ふっと彼女は、不自然な、真面目な顔だった。
「思いついたことが、あるんですよ。なぜ早く、気がつかなかったろう――お前さんも、ぼんやりしてるじゃないか。嫌だよ、ちょいと!」
急に、若やいだ態度で、おこうは、娘のように、甘えた手を振り上げて、打つ真似をした。ぎょっとして、惣平次が、一歩退った。
「何を、なにを思いついたと――。」
「あれ、もう二つの願いさ。三つ叶えてもらえるんだろう? あと二つ残ってるじゃあないか。」
「竜手様のことか。馬鹿な! 止せ! あの一つで、おれは、おれは――もうたくさんだ。」
「そうじゃないんだよ。わからない人だねえ。」
おこうは、奇怪に、少女めいた声音になって、しなだれかかるように、
「もう一つだけ、願ってみようよ。よう、もう一つだけさ。はやく、竜手様をお出し! さ、庄公が、今すぐ立派に生き返りますようにって、ね、願うんですよ。」
暗い隅から、藤
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