にまた、間の悪いことにゃあ、こんなでっけえ飛石が――。」
おこうの眼が、一時に上吊《うわづ》った。
「あの、庄公が――庄太が――!」
「お気の毒で――、」長五郎は、ぴょこりと頭を下げた。「何と言ったらいいか、挨拶が出ねえ――。」
膝が折れて、惣平次は、がたがたと、そこの履物を掴んだ。
押し退けて、駈け出そうとした。
長五郎の背後から出て来た侍が、前に立った。
「察する、が、取り乱してはならぬ。これ、取り乱してはならぬ!」
「大怪我、大怪我、でござりますか、庄公は。」
「うむ。まず、怪我は大きい。」
惣平次の両手が、侍の袴を掻いた。
「苦しんで、おりますか、苦しんで。」
「苦しんでは、おらぬ。」
「ああよかった。それでは、たいしたことはないので――。」
「もう、苦しんではおらぬ。」静かに、「極楽――。」
「ははあ――。」と、意味が、はっきり頭へ来ると、惣平次は、上り口に腰をおろした。宙を見詰めたまま、そっと、老妻の手を取った。
ふと、長いしずけさが落ちた。
「ひとり息子でした。」惣平次の口唇が、動いた。「孝行者で――。」
誰も、何とも言わなかった。
侍が、咳をして、
「わ
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