たように思う庄公が、もう嫁のなんのと、そのうちに初孫だ。婆さん、めでてえが、おれたちも、年齢を取ったなあ。」
「ほんとにねえ。それにつけても、庄太郎は働き者だけに、いっそう早く身を固めてやったほうがよくはないかと、わたしゃ思いますよ――おや! なんでしょう?」
突然、石場を飛んで来る二、三人の乱れた跫音が、耳を打った。
ふり向く間もなかった。
開け放しの土間ぐちを、人影が埋めて、走りつづけて来たらしく、迫った呼吸が、家じゅうにひびいた。
庄太郎の親方の、瓦長、瓦師長五郎と、二、三人の弟子だ。うしろから、用人らしい老人の侍が割り込んで来ようとしていた。
呑みかけの茶碗をほうり出して、惣平次は、突っ立った。おこうも、上り框《がまち》へいざり出て、
「何でござります、何事が起りました。」
長五郎は、鉢巻を脱って、ぐいと額の汗を拭いながら、やっと、声を調《ととの》えた。
「何とも、誰の粗相《そそう》でもねえんで――運でごわす。」
惣平次夫婦は、唾を飲んで、奇妙に無関心に、黙っていた。
弟子の一人が、興奮した声だ。
「おらあ見ていたんだが、足が辷って、真っ逆さまに落ちたもんだ。下
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