で、手に入るんだ。それに違えねえ。」
と、また、竜手様へ視線を向けると、庄太郎は、
「ははははは、そのことよ。気長に待ちねえ。じゃ、行って来るぜ。」
踊るように弾む若いからだが、石場を通り抜けて、一つ目橋の袂から、往来へ出て行った。
おこうは食事のあと片付け、それから、家の中のこまごました女の仕事に、取りかかる。ひとまわりお石場を掃いて来て、惣平次は、陽の射し込む土間に足を投げ出して、手網の繕《つくろ》いだ。
白昼《まひる》の一刻一ときが、寂然《しいん》と沈んで、経ってゆく。
もうあの、竜手様のことなど、老夫婦のあたまのどこにもなかった。
庄太郎は、弁当を持って行って、午飯《ひる》には帰らない。
正午だ。惣平次とおこうが、さし向かいで、茶漬けを流し込む。
食休みに、雑談になって、おこうが、
「お前さんどう考えているか知らないけれど、庄太郎に、もうそろそろねえ――。」
「嫁の心配かえ。」
「早すぎるってことはありませんよ。心掛けておかなければ、ほかのことと違って、こればかりは、急に、おいそれとは、ねえ。」
「そうだ――しかし、早えもんだなあ。昨日|蜻蛉《とんぼ》を釣ってい
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