て、
「百両!――父、百両の現金《げんなま》を祈りねえ。」
惣平次は、照れたように微笑って、その、竜の手という、汚ない乾物のようなものを、右手に高くさし上げた。
そして、おこうと庄太郎が、急に、謹んだような顔を並べている前で、大声に、呶鳴った。
「竜手様へ、なにとぞわしに、百両の金を下せえまし。お願え申しやす――。」
言い終らぬうちに、惣平次は、竜手様を投げ捨てて、躍り上って叫んだ。
「わあっ! 動いた! うごいた! 竜手様が動いた!」
びっくり駈け寄った妻と息子へ、蒼くなった顔を向けて、
「おい、動いたぜ、おれの手の中で。」
と、不気味げに、自分の手から、畳に転がっている竜手様へ、眼を落した。
「おれが願え事を唱えると、蛇みてえに曲って、手に巻きつこうとしたんだ。」
「だが、父、百両の金は、まだ湧いて来ねえじゃねえか。」庄太郎は、どこまでも嘲笑的に、「へん、こんなこって百両儲かりゃあ、世の中に貧乏するやつあねえや。畳の隙からでも、小判がぞろぞろ這い出すところを、見てえもんだ。竜の手などと、人を喰ってるにもほどがあらあ。」
「気のせいですよ、お爺さん。そんなからから[#「から
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