、すこしは眼をあけて人を見ていただきましょう。」
「親分、師匠はこの部屋で、おこよさんと何か手真似で話をしていて、」出方の藤吉も、気の毒そうに、「廊下にゃいなかったんですぜ。」
「おうさ。その手真似のことよ。」と、藤吉は、おこよへ笑って、「その時師匠は、鴨居《かもい》越しに、障子のそとへ人形を垂らして見ずに糸を使っちゃあいなかったかな。」
「ええ。そうやって、糸の使いをいろいろ苦心しながら、わたしに指の動かし方を話して聞かせていらっしゃいましたが――。」
 一同の眼が、障子の上を振り仰ぐと、なるほど、鴨居のすかしがあけられて、開きが作られてある。
 藤吉は、笑い出していた。
「早く言やあ、右にも左にも、下にも、犯人の逃《ず》らかるところがねえとすりゃあ。上から飛んで逃げたにきまってらあな。」
 紋之助もにこにこして、
「この年寄りが、あんなところを上ったり下りたり、それに、私にあの力持ちの武右衛門さんが殺せるものですか。馬鹿も、休みやすみ――。」
 いきなり、藤吉の手が伸びて、操り舞台のうえの人形の一つを、掴み上げた。それは、ものものしい頭髪と服装《なり》の、松王丸の人形だった。
「師
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