匠にゃあその力がなくても、師匠の指には、いや、名人の操る糸の先には、金剛力があるのだ。部屋から、鴨居のそとへこの松王の人形を垂らして、これに三味の糸の束ねたのを持たして、操り糸を通す名人の指の先で、軽業師武右衛門を絞めたに相違ねえ――やい、野郎ども、退け!」
藤吉は、人々を押し退けて空地《あき》を作りながら、「見ねえ、この灯りを背負って、おいらの影は、あんなに大きく映らあ。藤吉どんの見たのあ、人間の影じゃあねえんだ。そら、こりゃあどうだ――。」
武右衛門の倒れた個所の障子に、松王丸の人形の影をうつすと、小さな人形が光線の関係で普通人の大きさに拡がり、頭が大きく、着物の裾がひらいて袴のように見え、それに、背を曲げて、いかさま傴僂のようである。
紋之助は、うつむいて小さな声だった。
「おこよを弄《おも》ちゃにしようとして、狙っている様子でしたから、いっそのことと思って――。」
藤吉が、気の毒そうな表情《かお》になったとき、人々のうしろから太い声がして、
「しかし、人形が首に糸を巻いたぐらいで死んだのは――藤吉親分のまえだが、わたしは、こう思いますね。ぼんやり歩いているところへ、くび
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