驚きは、顔しりぞけて肩を出し、拳を宙に置くものぞかし
笑う時、男は肩を添る也、女は袖をあててうつむく。」
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 その他、これら人形の表現法と基本動作を歌にして示したのが五十三首あって、古来喧ましい竹久家の名人芸だった。

      九

 人形を見ていて藤吉は、そんなことを考えていたわけではない。この時、かれの頭脳《あたま》はほかにあって、忙しく働いていたのである。
 出方の藤吉の眼は、とっさのことではあり、それに、相方《あいかた》が、ぼんやりした影法師なので間違っているかもしれないが、とにかく、その、障子にうつった影は――傴僂だったという。が、言うまでもなく、楽屋にせむしは、ひとりもいないのである。
 藤吉は、うっとりしたような眼で、彦兵衛を招いてささやいた。
「誰と誰てえことは言わねえが、おらあ一応五人の人間を疑ってみたんだ。が、考えてその四人まで身証《みしょう》がはっきりして取り除くとすると――最後《あと》の一人が犯人てえことは、なあ彦、動かねえところだろうじゃあねえか。」
「へえ、その五人目てえのは、誰なんで。」
 葬式彦は、わかったような、わからな
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