ろっと絞め殺されたのか、それがあっしにゃあ、まだわからねえ。」
「べら棒め、おいらにもわからねえことが、彦づらに解ってたまるけえ。」
「だがね、親分。こりゃあ、絞め殺されたというよりあ、首に紐を巻かれて、はっとしてあわてる拍子に、自分で縊れ死んだ――んじゃあねえか、と、まあ、こいつああっしの勘考だが――。」
「でかしたぞ、彦。じつあおいらも、そこいらのところと――つまり、武右衛門は、いわば自力で縊ったようなものと、とうから踏んでいるのだ。が、誰が、どうやって、廊下を通ってる武右衛門の頸部へ、紐を巻いたか――。」
「影の仕業《しわざ》だね、親分。」
「そうよ。影の仕業よ。でその影あ――。」
「そこだて――。」
 彦兵衛が、しっくり腕を組むと、藤吉は、珍しくにこにこして、
「彦、一足だ。よく考えてみな。おいらにゃあもう、およその当りはついてるんだ、ふははははは。」
 銀兵衛や梅の家連の報せで、芸人の溜りから人が出て来て、楽屋うらは、騒ぎになりかけていた。
 操り人形の名人として知られている竹久紋之助も、いつの間にかその部屋へはいって来ていて、おこよと円枝のうしろに、気むずかしそうな、老いた
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