世話をする男たちの話が、まだ何も知らないらしく、暢気に笑いさざめいて聞こえていた。
 廊下の入口を見返ると、前に言ったように、大きな裸蝋燭がじいじいと燃えつづけて、その黄色い光線が、幅の広い角度を取ってぼんやり部屋の障子を照らし出している。自然に作り出される光の魔術とでも言おうか、細い個所の一方にだけひかりが動いているので、ちょっと不思議に見えるほど、その蝋燭の灯が、壁に、天井に、複雑に交錯しているのだった。これならば、遠くまで、わりにはっきりと影を投げたことであろうと、藤吉は思った。
 彼は、ゆっくり頭をかきながら、
「なあ、藤吉どん。ここんところをもう一度聞こうじゃあねえか。いいか――おまはんが、この客席《おもて》の戸からはいって来る。部屋の障子がすこしあいて、人形太夫の紋之助さんと――女は、何と言ったっけな?」
 いつの間にか、帰って来ていた幸七が、口を入れて、
「おこよさんと言いましてね、紋之助さんの三味線引きでございます。」
「うむ。そのおこよさんと紋之助が話し込んでいて、ここに、今のとおりに武右衛門が死んで倒れていた。他には誰もいなかった――と、こう言いなさるんだね?」

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