だのか――。」
「何か、細紐のようなものででも――。」
彦兵衛が口を挾むと、
「いや、皺の寄り具合えから見ると、こうと、糸を束ねたような物だな。三味線の糸でも――。」
武右衛門の咽喉を辿っていた手を離して藤吉は、発見者の男衆へ向き直った。
「そこで、お前の名だが、何と言いなさるかね。」
「藤吉。」
「え?」
「藤吉てんで。」
にやにやする彦兵衛をちらと見て、藤吉は、
「藤吉さんか。」
「へえ。出方の藤吉と申しやす。へえ。」
「うむ。藤吉さん、おらあ八丁堀の者だが――。」
「ええもう、よく存じ上げております。親分と同じ名前で恐れ入りやすが――。」
「そんなこたあどうでもいい。見つけた次第を細かに話してもらおうじゃねえか。」
「いえね、後に出る人の顔が揃ったかどうか見ようと思いましてね、楽屋番の八兵衛に訊くつもりで、おもてからここへはいってまいりますと、御覧のとおり薄っ暗いんでよく見えませんでしたが、こっち側の部屋に、いま、あの操り人形の舞台の置いてある向う側で、太夫の竹久紋之助さんと、おこよさんが何かしきりに話し込んでいました。細長い一本廊下ですから、よく見通しがききます。ほかには
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