」
と言いかけた常吉の言葉を取って、
「何ぞほかに自滅の因《もと》と思い当たるような筋合いはありませんかね。頭《かしら》はこの家とは別して近しく出入していたようだが。」
と藤吉は眠そうに装って相手の顔色を窺った。
「さあ――。」と常吉は頭を掻いた。
「なにしろ、お内儀《かみ》さんが三年前の秋に先立ってからというものは、旦那も焼きが廻ったかして、商売の方も思わしくなく内証もなかなか苦しいようでしたよ。が、こんな死様《しにざま》をしなけりゃならねえ理由《わけ》も――あったようにゃあ思われねえが――いやこうと言っちゃなんだが、例の、そら、奥州路の探しものにさっぱり当たりがつかねえので、旦那もしじゅうそれが白髪《しらが》の種だと言い言いしていましたがね。」
藤吉は聞耳を立てた。
「それが、その奥州路の探し物ってなあ何だね。まさか、飛んだ白石噺《しろいしばなし》の仇打ちという時代めいた話でもあるめえ。」
「すると、まだ親分は徳松さんの一件を御存じねえと言うんですかい。」
と常吉は呆れて見せた。
「初耳ですね。」と藤吉は嘯《うそぶ》いた。
「いったいその徳松さんてのはどこのどなたですい?」
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