釘抜藤吉捕物覚書
宇治の茶箱
林不忘

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)探《まさぐ》り

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|代《でえ》分限《ぶんげん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「毬」の「求」に代えて「鞠のつくり」、第4水準2−78−13]
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      一

「勘の野郎を起すほどのことでもあるめえ。」
 合点長屋の土間へ降り立った釘抜藤吉は、まだ明けやらぬ薄暗がりのなかで、足の指先に駒下駄の緒を探《まさぐ》りながら、独語のようにこう言った。後から続いた岡っ引の葬式彦兵衛もいつものとおり不得要領《ふとくようりょう》ににやり[#「にやり」に傍点]と笑いを洩らしただけでそれでも完全に同意の心を表していた。しじゅう念仏のようなことをぶつぶつ[#「ぶつぶつ」に傍点]口の中で呟いているほか、たいていの要は例のにやり[#「にやり」に傍点]で済ましておくのが、この男の常だった。そのかわり物を言う時には、必要以上に大きな声を出し
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