う下心も手伝って、伴れ出しの一本たちを相手に終日盃を手から離さなかった。父親《おやじ》の名代で交際大事と顔を出したものの、元来《もともと》伝二郎としては品川くんだりまでうまくもない酒を呑みに来るよりは、近所の碁会所《ごかいしょ》のようになっている土蔵裏の二階で追従《ついしょう》たらたらの手代とでもこっそり[#「こっそり」に傍点]碁の手合わせをしているほうがどんなにましだったか解らない。好みの渋い、どちらかといえば年齢《とし》のわりに落ち着いた人柄だった。それというのも養子の身で、金が気ままにならなかったからで、今に見ろ、なにかでぼろく[#「ぼろく」に傍点]儲けを上げて、父親《おやじ》や母親《おふくろ》を始め、家つきを権《かさ》に被《き》ている女房のお辰めに一鼻あかしてやらなくては、というこころがなにかにつけて若い彼の念頭《ねんとう》を支配していたのだった。
酒は強い方だったが、山下の軍鶏屋《しゃもや》で二、三の卸《おろし》さきの番頭たちと、空腹へだらしなく流し込んだので送り出された時にはもういい加減に廻っていた。俗にいう梯子《はしご》という酒癖《さけぐせ》で、留めるのも諾《き》かず途
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