いをかけて、怪ぶまれる天候もものかはと、出入りの仕事師や箱を預けた粋な島田さえ少なからず加えてお台場沖へ押し出したのであった。
 同勢二十四、五人、わいわい[#「わいわい」に傍点]言いながら笠森稲荷の前から同朋町《どうぼうちょう》は水野|大監物《だいけんもつ》の上屋敷を通って、田町の往還筋へ出たころから、ぽつぽつ降り出した雨に風さえ加わって、八つ山下へ差しかかると、もうその時は車軸《しゃじく》を流す真物の土砂降りになっていた。葦簾《よしず》を取り込んだ茶店へ腰かけて、しばらくは上りを待ってみたものの、降ると決まったその日の天気には、いつ止みそうな見当さえつかないばかりか、墨を流したような大空に、雷を持った雲が低く垂れ込めて、気の弱い芸者たちは顔の色をかえて桑原くわばらを口のうちに呟き始めるという、とんだ遠出の命の洗濯になってしまった。
 が、なんと言ってもそこは諦めの早い江戸っ児たちのことだから、そういつまでも空を白眼《にら》んでべそ[#「べそ」に傍点]をかいてばかりもいなかった。結局この大風雨を好いことにして、誰言い出すともなく、現代《いま》の言葉で言う自由行動《じゆうこうどう》を採
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