座屋の白壁に映って行く。槍を担いだ中間の話し声、後から小者の下駄の音。どこか遠くで刀鍛冶の槌《つち》の冴えが、夢のようにのどかに響いていた。
「親分え。」
戸口で大声がした。と思うと、葬式彦兵衛がもう奥の間へ通って来た。崩れるように据わったその眼の光り、これはなにか大物の屑が引っかかったらしいとは、藤吉勘次が期せずして看て取ったところ。親分乾児が膝を並べる。
簀戸《すど》へもたれて大|胡坐《あぐら》の藤吉、下帯一本の膝っ小僧をきちん[#「きちん」に傍点]と揃えた勘弁勘次が、肩高だかと聳やかして親分大事と背後から煽ぐ。早くも一とおり語り終った彦兵衛、珍しく伝法な調子で、
「さあ、親分、これがその神がかりのお墨付――それからこいつが。」と苦しそうに腹掛けを探って、「犬からお貰いした土産物、ま、とっくり[#「とっくり」に傍点]と検分なすって下せえやし。」
投げ出した紙片《かみ》と肉一片――毛髪の生えた皮肌《はだ》の表に下にふっくら[#「ふっくら」に傍点]とした耳がついて、裏は柘榴《ざくろ》のような血肉の団《かたま》りだ。暑苦しい屋根の下にさっ[#「さっ」に傍点]と一道の冷気が流れる。藤
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