吉も勘次も我になく首を竦《すく》めた。
「――――」
 藤吉は手を伸ばした。が、取り上げたのは紙の方だった。素早く眼を通して、
「彦、どこで拾った、この呪文《じゅもん》を?」
「小舟町二丁目と瀬戸物町の曲りっ角で、へえ。」
「その頬っぺたは?」
「へ! すりゃあ、やっぱりこりゃ頬っぺた――。」
「はあて彦としたことが、一眼見りゃあわからあな、そりゃあお前、女子の左頬だ。髪の付根と言い死肌の色と言い、待ちな、耳朶の形と言い、こうっと、ま、三十にゃあ大分|釣銭《つり》もこようって寸法かな――どこで押せえた、犬ころをよ?」
「へえ庄助屋敷の前で。」
「なに?」藤吉は乗り出した。「庄助屋敷の前?」
「へえ。」
「彦、あそこにゃあお前、お笑え草の高札が――。」
「へえ、その高札の下なんで。」
「彦。」藤吉の声は鋭かった。
「いつぞやお前が話した申上候一札の文言、あれに違えあるめえのう?」
 彦兵衛は子供のように頷首《うなず》いたが、ふ[#「ふ」に傍点]と思い出したように早口に、
「その高札の一件ですが、四日前にも娘っこ[#「っこ」に傍点]が二人、昨日も一人赤児がふっ[#「ふっ」に傍点]と消えて失
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