くなったとのこと。」
「またか。」
と藤吉は眉根を寄せる。両腕を組んで考え込む。重おもしい沈黙《しじま》があたりを罩《こ》めた。
「彦、お前、その頬っぺたを洗っちゃ来めえのう?」
藪から棒に藤吉が訊いた。
「洗った跡でもごぜえますかえ?」
「なにさ、ねえこともねえのさ――してどこから銜《くえ》え出たもんだろうのう?」
「犬でげすけえ?」
「うん。」
「どこから銜えて来たもんかそいつ[#「そいつ」に傍点]あ闇雲わからねえが、発見《めっけ》た野郎の口っ振りじゃあなんでも小舟町――。」
「小舟町?」
「へえ。」
「この御呪文も小舟町――。」と言いかけた藤吉の言葉に、他の四つの眼もぎらり[#「ぎらり」に傍点]と光る。彦兵衛は片身をぐっ[#「ぐっ」に傍点]と前へのめらして下から藤吉を見上げながら、
「親分、この二つになんぞ聯結《つながり》でも、いやさ、あると言うんでごぜえますかえ?」
眼を瞑ったまま藤吉は答えない。団扇を持つ勘次の手もいつしか肘張って動かなかった。
小舟町三丁目、俗に言う照降町の磯屋の新造でおりんという二十五になる女が二月ほど前に行方|不知《しれず》になった。それからこっ
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