ち後を引いてか、当歳から若年増、それも揃いも揃って女ばかりがすでに七人もこの神隠しの犠牲《にえ》に上ったのであった。
近ごろの新身《あらみ》御供は四日前に二人。安針町の大工の出戻娘お滝と本船町三寸師の娘お久美。お滝は伝通院傍へ用達しに行った帰途を伝馬町で見かけた知人があるというきり、お久美坊は酒買いに出たまんまとんと行方が知れない。お滝は二十五、お久美は十三だった。
昨日浚われた嬰児《あかご》はお鈴と言って、土用の入りに生れたばかり、子守をつけて伊勢町河岸の材木場へ遊びに出しておいたのが、物の小半時もして子守独りがぼんやり帰って来たから不審に思って訊き質すと、ちょっと赤児を積材の上へ寝かし河岸で小用を足して帰って見るともうなかったというのでただちに大騒ぎして捜したが元よりそこらに転がっていべき道理もない。
これらの話を安針町裏店の井戸端で聞き込んで来たと彦兵衛が言った時、藤吉は、
「井戸?」
と何か気になるような様子だったが、
「二十五に二十五に十三に一つ――か。」としばらく考え込んで、「女の頬にこの呪文――お、そりゃあそうと、あの高札のこったがの、あんなべら[#「べら」に傍点
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