は訊き返した。
「あの犬あどこから来ましたえ?」
「辰う、発見《めっけ》たなあお前だなあ?」
「うん。」辰と呼ばれた男は息を弾ませて、「うん、小舟町の方から来やあがった。」
「小舟町?」
「うん。で、何だが妙竹林《みょうちきりん》な物を口っ端《ぺた》へぶら[#「ぶら」に傍点]下げてやがるから、俺あ声揚げて追っかけたんさ。するてえと――。」
「するてえと、ここにいなさる衆が突ん出て来て、たちまち犬狩りがおっ[#「おっ」に傍点]始まったってえわけですかえ――や、おおけに。」
 くるり[#「くるり」に傍点]と廻り右した彦兵衛は何思ったかすたすた[#「すたすた」に傍点]歩き出した。
 人々はあわてた。
「おい、そいつを持ってどこへ行くんだ?」
「なんだか出して見せろ!」
「こん畜生、怪しいぞ。」
「かまうこたあねえ。こいつから先にやっちめえ!」
「それっ!」
 こんな声を背後にすると彦兵衛はやにわに走り出した。町内の者も一度に跡を踏んだ。が、無益なことに気がつくとすぐ立停まり、長谷川町を躍りながらだんだん小さくなって行く竹籠を言い合わしたように黙って凝視《みつ》めていた。
 韋駄天の彦、脚も空
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