犬の足に絡んだ。一声高く鳴いて犬は横町へ逃げ込んだ。後には一片の肉が転がっている。
拾い上げた彦兵衛、見るみる顔色が変った。きっ[#「きっ」に傍点]となった。そして振り向いて折柄走り寄った追手の顔を見廻した。
「お前さん方、何しにあの犬を追って来なすった?」
「てこ[#「てこ」に傍点]変な物を銜《くえ》えてやがったからよ。」
一人が答えた。そのてこ[#「てこ」に傍点]変な物を、彦兵衛は突然自分の丼へ押し込んで、さっさと歩き出そうとした。他の一人が立ち塞った。
「やいやい、屑屋、拾った物を出せ。犬の野郎が置いてった物を、手前、出せよ。」
が、彦兵衛は黙って突退けた。二、三人が追い縋る、「伺えやしょう。」と彦兵衛は開き直って、「犬が何を銜えて来たか、皆の衆、定めし御存じでごわしょうの?」
「知るけえ! ただ異様な物と見たばかりに俺たちゃあこうして後を――。」と一人。
「屑屋渡世のお前なんざあ知るめえが此頃このあたりゃあ厳しい御詮議――。」とまた一人。
それを遮って彦兵衛は高札を指さした。
「あれけえ?」
「それほど承知ならなおのこと、隠した物をこれへ出しな。」
返事の代りに彦兵衛
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