はっきり言った平兵衛は、ごぐ[#「ごぐ」に傍点]っと一つ唾を呑んで、これを末期《まつご》の水代りに大往生を遂げたのだった。
 声もなく立ち上った三人、言わず語らずの裡に胸から胸へと同じ思いが走った。仏滅|定《さだん》、そうだ、暗から闇へ――。
 裾を下ろして襟を正し形を改めた親分乾児は、むくろをしずかにしずかに井戸の底へ返した。藤吉の手が最初に一掬いの土を落した。勘次と彦兵衛が狂気《きちがい》のように急いで穴を埋めた。道六神の鬼火石が早速の墓を作った。
「お手のものだ、彦、経を上げてやれよ。」
 藤吉が言った。
「生得因果《しょうとくいんが》。」
 一言呟いて葬式彦はくす[#「くす」に傍点]っと笑った。
 庭の隅にも土饅頭を盛って相前後して足を払い、三人が町へ出た時、照降町の空高くしらじらと天の河が流れていた。
 素人八卦は当ったのかわれながら不思議なぐらいだが、幽明の境を弁えぬ凝性《こりしょう》の一念迷執、真偽虚実を外《よそ》に、これはありそうなことだと藤吉は思った。帰り着いたのは短夜の引明《ひきあけ》だった。勘次が先にはいって二人の頭から浪の花を見舞った。ここに最後の不思議と言えば
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