9]《かがや》いていた。
無言のうちに事が運ばれた。
逸早く彦兵衛が捜して来た物干竿の先に、御用十手が千段巻に捲きつけられて、足場を固めて立ちはだかった強力《ごうりき》勘次、みるみる内に竿の鍵へ手を引っかけて猫の仔みたいに男一人を釣り上げた。
磯屋平兵衛が虫の息で三人の足許に長くなった。顔から着物から四肢《てあし》から、うっすら[#「うっすら」に傍点]と蒼い光りがさしていた。
井戸の底には昨日|浚《さら》われた赤児お鈴の屍骸が、まるで生きているように横たわっていた。
「鬼火だの――燐だのう。」
誰にともなく藤吉が言った。その声を聞きつけたものか、平兵衛はうう[#「うう」に傍点]と唸った。彦が支えた。藤吉はいざり寄る。「お、お、親分か――よ、黄泉《よみじ》の障りだ、き、聞いてくれ――。」
片息ながら平兵衛の話した一伍一什《いちぶしじゅう》。
世の中の事はすべて落日になる時は仕方のないもので、あれほど仲のよかった女房のおりんとも何かにつけぶつかる日が多かったが、五月|末季《すえ》のある夕ぐれ、商売上の些細なことから犬も食わない立廻りのあげく、打ちどころでも悪かったものか、おり
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