る。あたりを罩《こ》める射干玉《うばたま》の夜陰に、なんのことはない、まこと悪夢の一場面であった。
「おうっ、彦、勘、手を貸せ。」
 藤吉の声に人心ついた二人、両手と両足を一時に使って光る土を蹴散らす。万遍なく二、三寸も掘り下げると、出て来たのが伸銅《のべがね》のような一枚の石。その下の土中から光りが射している。
「待て!」
 耳を澄ます。人の呻き。どうやら足の下かららしい。思わず飛び退いて、三人力を合せて石を持ち上げる。紙のように軽い。機《はず》みを喰って背後へ下がる。とたんに、ぱっ[#「ぱっ」に傍点]と一条の光りの柱が白布のように立昇った。地底から、穴から――古井戸から。
 六つの手を継ぎ合わして、六つの眼が穴を覗く。二、三秒、暗黒に慣れた瞳が眩《くら》んだ。やがてのこと、青白い耀《ひか》りに照らし出された井戸の底に、水はなくても焔《ひ》が燃え、人の形のかすかに動いているのが、八丁堀三人の視線を捉えた。呻き声は絶え入りそうにもつれて上る。井戸の壁と起した石とに※[#「火+召」、第3水準1−87−38]々乎《しょうしょうこ》として燠火《おきび》が※[#「火+玄」、第3水準1−87−3
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